議会での質問・答弁

2020年06月25日

2020年第4回 6月定例会 請願に対する討論 中原ひろみ議員

(中原ひろみ議員)
 日本共産党広島市議団の中原ひろみです。会派を代表して請願7号「放射線副読本を使用しないことについて」の採択に賛成の立場から討論を行います。
 この請願は、2018年10月に文科省が1億8000万円をかけて、全国のすべての小・中学校、高校に直接送付した再改訂版「放射線副読本」を使用しないでほしいと求めています。
 国は放射線副読本を「放射線に対する科学的な理解を深める一助とする」としていますが、「市民と科学者の内部被爆問題研究会」からは、致命的な欠陥が4つあると指摘されています。
①福島原発事故の被曝被害を無視し、真実が記述されていない。
②内部被爆を無視している。
③放射性微粒子の危険性に対する警告がない。
④トリチウムを軽視している。
との意見です。
 少し具体的に副読本の問題点を紹介します。
これまで小児甲状腺がんの発症率は100万人に1人ないし2人とされてきましたが、原発事故後には、福島県内で200人の小児甲状腺がんが確認され公表されています。これは極めて異常な事態です。しかし国は「原発事故との因果関係が確認されていない」ことを理由に、「全員が健康に影響の及ぶ数値ではなかった」として、福島県下で子どもの甲状腺がんが多く見つかっていることに触れていません。
 100ミリシーベルトの放射線を受ける場合の発がんリスクは、野菜をとらない、塩分を取りすぎたときと同程度の発がんリスクだとして、事故による被曝は低線量だから心配ないとし、放射線による被曝の影響は、子どもの方が大きいという重要な事項を説明していないことは重大な欠陥です。
 また、「被爆による遺伝的な影響を示す根拠は報告されていない」ともしていますが、これは、国際放射線防護委員会が公式に認めている、「被爆すれば遺伝的影響がある」との科学的真実に反するものです。
 さらに、人工的な放射線による無用な被爆を防ぐため、年間5m㏜以上は人の立ち入りを禁止する「放射線管理区域」が設定され、チェルノブイリでは人の住めない地域に指定されていますが、日本は事故に合わせて一般公衆の被爆線量限度を年間1m㏜から20m㏜に緩和し、「放射線管理区域」を超える被爆線量でも居住できるように変更した事実も書かれていませんし、「放射線管理区域」という文言そのものが、小中高のいずれの副読本にも出てきません。
 紹介したのは一例ですが、放射線副読本は、現実を正しく認識させるという「教育の基礎」に抵触する内容です。
 過酷な事故ほど、被害の深刻さを示す情報を取り上げて学べるようにすることが必要ですが、副読本は「原子力の安全神話」への反省もなく、「原発は良いものであると洗脳する」国の復興ストーリーに沿ったプロパガンダ本でしかありません。
 教育基本法は偏重した教育を否定しています。教育の営みは子ども達に考える力、判断力をつけることです。そのためには厳格に事実を伝えることが必要です。
 放射線が健康被害を及ぼさないという副読本を認めることは、被爆の被害を認めないことと同じになります。それは被爆地ヒロシマの否定につながります。
 内部被爆による晩発性障害で多くの市民が長年にわたり苦しみ続け、黒い雨の降雨地域拡大の裁判闘争にも象徴されるように、広島・長崎の原爆被爆者の悲劇を繰り返さないためにも、被爆地の教育委員会は、被爆には発がんリスクがあること、人体に影響があることなど、被爆の正しい事実を伝え学べる教材に改定せよと国に物申すべきです。
 文科省は「再改定版」放射線副読本は、福島原発事故の避難者に対するいじめを防止するための意識改革を図る目的で作成したものであり、内容が拡充されていて有意義だというのですが、事故の核心にあたる情報が省かれ、事故を矮小化する偏った内容であること、さらに、事故の加害責任者である東京電力と日本政府の反省がないということを改めて指摘しておきます。
 国と東京電力がその責任の重さからして、少なくても、汚染地域住民の避難、生活、医療を保障した上で、大規模な疫学的調査を実施し、正確なデータを公表することが風評やいじめを防ぐことになると考えます。
 そもそも原子力発電所がなければ、あるいは原子力発電所の事故がなければ「放射線いじめ」は起こらなかったはずです。
 どんな理由があろうともいじめはダメなのです。正しい科学的知識を教えることが、道徳・人権教育を行う基本です。「相手が傷つく発言は控えよう」という意識が醸成されていればいじめは起こらないのではないでしょうか。
 結局、再改定版「放射線副読本」は、いじめ防止に名を借りて、国際的な原発事故の評価尺度で最悪の「レベル7」に該当する過酷な原発事故を起こした加害者責任を矮小化し、個人の「間違った考え」へと責任をすり替えるものです。
 以上の理由から請願7号「放射線副読本を使用しないことについて」の採択を求めるものです。議員各位の賛同で被爆地自治体の市議会の名に恥じない採決結果になることを期待し、賛成討論とします。